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“四百十八日目”

 足を踏み入れた【神秘豊潤なる暗黒大陸】は、太古の植物が旺盛に繁栄する自然の楽園だった。

 樹齢は数百年から数千年になるだろう大樹の森。多種多彩な雑草は俺達がすっぽりと隠れてしまうほどの大きさがあり、濃厚な緑の匂いが充満している。

 今までに無い、重厚ながらも清涼な雰囲気の森である。


 小人になった気分で探索していると、バナナやリンゴのような果実を実らせる大樹があった。

 その果実の大きさは俺の身の丈よりも大きく、好奇心のままに食べてみたが非常に美味かった。味はバナナやリンゴのような感じだが、より濃厚な味わいだ。深い甘み、スッキリとした口当たり。

 大きさがあるのにペロリと食べてしまった。


 大樹の大きさに見合うように、家屋のような大きさのキノコがあった。

 甘い匂いを発する赤い傘が特徴的なキノコは、どうやら食獣植物の一種らしい。

 人間大の“甲殻鼠”を傘から垂らした縄のような太さの粘着菌糸で拘束し、その全身にはビッシリと白い何かが纏わりついて絶賛消化中だった。

 毛皮はもちろん内臓まで何かの液体に溶けたようなかなりグロテスクな有様だったので、ここまで醜く損壊した死体を見慣れていない姉妹さんなどは悲鳴を上げたが、それもご愛嬌だろう。


 探索を続けていると、森の中のやや開けた場所で、魔法金属製の全身鎧と体格に見合った大戦斧や巨大剣を装備した十メートル級の巨人四人組に襲われた。

 俺達が襲われる前は、巨人達が三百体は居ただろう武装した燃えるような赤目が特徴的な“小鬼”(ゴブリン)“大鬼”(オーガ)、その他多種の“獣人”による混成軍団と殺し合っていた。

 最終的には巨人達が軍団を殲滅したが、その際に三人の被害が出ていたので、頭に血が上って関係ない俺達に襲い掛かって来たのだ。

 襲い掛かってきた際、巨人達は『マダ・グナヤ シャ・タハカ ダブ・ドナフ トゥカイア タタケウ!』『グラゼール ゴルゴロス!』『グラゼール グラゼールッ グラゼールッ! ガフドナス!』『グラゼール ユーサズ!』『グラゼール ディハ? ケス ケスクイ カウケスクイ!』など、意味のある言葉を発した。


 ちなみに、ここまで使う機会など殆どなかった【異種族言語(ジャイアント・ランゲージ)】によって翻訳すると『マダ・グナヤも、シャ・タハカも、ダブ・ドナフも死んでしまった。安らぎの地へ送る為にも、戦わねばならぬ!』『狂気の赫眼は殺す!』『狂気の赫眼、狂気の赫眼ッ、狂気の赫眼ッ! 獄瞑へ叩き込む!』『狂気の赫眼は許しておけぬッ』『狂気の赫眼、じゃない? ま、待て、皆待て!』となる。

 どうやら四人の中で最も小柄ながら、老木のように捻じれた魔杖を持つ魔術師風の巨人だけは勘違いに気が付いたらしい。

 慌てて止めようとしてくれたが、他の三人は地響きを鳴らしながらコチラに突っ込んでくる。


 普段なら問答無用で排除するところだが、今回は勘違いに気が付いた巨人も居る事だし、一先ず殺さず無力化する事にした。

 なにせ、普通のダンジョンモンスターは喋らない。咆哮や意味の無い鳴き声を発するだけだ。例外は知っているが、それは例外だからである。


 しかし巨人達の瞳には確かに知性の光が宿り、会話によって意思の疎通を行い、死んだ仲間を思う感情がある。  普通のダンジョンモンスターではないのかもしれない。それを知る為にも、情報を引き出すには生かす必要があったからだ。


 その為、先頭を走る巨人の顎を跳躍すると共に殴打。

 加減したが、それでも巨体は縦に一回転して地面に背中から落ちていく。顎の分厚すぎる骨が砕けた感触があった。治療してもしばらくは後遺症が残るかもしれない。


 そして一体を倒したところで止まらず突っ込んでくる後続の巨人に対しては、空中を蹴って瞬間的に加速して移動し、その右側頭部に回転の勢いを乗せた蹴りを入れる。

 金属のように硬く分厚い頭蓋骨に罅が入るほどの威力のある蹴りは巨人を横回転させると共に意識を奪い、脱力した巨人の身体が地を転がる。


 あっという間に仲間がやられた事に動揺しつつも大戦斧を全力で振り下ろした三人目の一撃を、空中で銀腕を鞭のように振るって迎撃した。

 大戦斧はガラスのように呆気なく砕け、巨大な破片は周囲に飛散。巨人は衝撃によって体勢を崩し、背中から地面に倒れて小さな地揺れを起こす。


 数秒で倒れた三人の奥には、大口を開けて唖然としている最後の魔術師風の巨人が居た。  彼は何が起こったのか頭で理解するのに遅れているようだった。


 それを横目に見ながら、大戦斧を壊された衝撃に負けて倒れただけの最も軽傷だった三人目の巨人の胸の上に乗る。

 巨人は慌てて立ち上がろうとしたが、胸に乗った俺に踏みつけられて動けない。


 横になった人間が、自身の五分の一程度の大きさしかない人形に踏まれて起き上がれない。

 そんなシュールな光景は、当人――当巨人にとっても理解できないらしい。

 無駄に暴れようとするが、【巨人殺し(ジャイアントキリング)】などのアビリティによって簡単に抑え込める。

 赤子の手を捻るよりも簡単だ。強く踏むだけで巨人の身体は圧に負ける。

 ただこれ以上暴れられても面倒なので、頬をビシバシと叩く。

 軽くしたつもりではあるが、棍棒で殴られる程度の威力はあっただろうか。巨大な巨人の頭部が面白いぐらい左右に揺れた。


 両頬の痛みと理解不能な現実に思考が追いつかなくなって動けなくなった巨人に対して、俺は色々と尋問する事にした。

 最も、質問に答えたのは、主に魔術師風の最後の巨人だったが。


 予期せぬ初暗黒大陸住人との接触で分かった事は多い。


 まず、四人の巨人は“森狩巨人”(イェルガト・ジャイアント)という種族になるらしい。

 薄緑色の頭髪に茶色い肌。森の中でも機敏に動けるように巨人としては引き締まった体形で、手先も器用。

 力だけでの戦闘ではなく技術も体得した彼等は決して弱いわけではなく、呆気なく倒しはしたが、単純に生成しただけのブラックフォモールなどよりも遥かに強い。


 そんな彼等だが、多くの巨人達の暮らす巨人王都≪クロニュソス・ティタン≫から、現在地である≪巨獣の幻森(ビグス・フォレトス)≫にまで任務の為にやって来た兵士らしい。

   そして四人の巨人の任務は、巨人でも苦戦する巨獣や巨蟲などが暮らす、巨植物が支配する太古の森。

 人間大の動植物が小型に分類され、十メートル級の巨人やそれよりも巨大なモンスターが跋扈する【神秘豊潤なる暗黒大陸】の中でも上位に位置する危険地帯。

 複雑怪奇に生い茂る樹木によって方角は分からなくなる天然の迷宮のようなものらしいので、何も知らない者が下手に入ると外には生きて出られない場合も多い。


 そんな≪巨獣の幻森≫にて、目撃されたという敵の発見および排除だった。


 敵とは、巨人達が戦っていた赤目のゴブリンやオーガ達の事だ。

 彼等が“狂気の赫眼”(グラゼール)と呼ぶ、燃えるような赤目が特徴的なコイツ等は巨人達と敵対する勢力の軍勢である。

 巨人達の王――【巨人王】バロル・ドゥバズラと長年争っている地底都市を統べし【赫眼王】マルヴァスクの配下らしいが、【神秘豊潤なる暗黒大陸】には色々と複雑な事情があるらしいので今回は省略する。

 とりあえず長年の怨敵だと思えばいい。しかも【赫眼王】の命令なら命も簡単に投げ出して特攻する系の厄介者だ。


 そんな敵軍が自分達の勢力圏内に侵入したかもしれないなどとなれば、排除するために動くのも当然だろう。


 それにしても、【巨人王】はなんだか以前倒したバロールに似た名前なのだが、何かしらの繋がりがあるのだろうか? もしかしたら遠い祖先とかかもしれない。

 話を聞けば強力な【魔眼】を備えているらしいので、可能性はありそうだ。


 なんて妄想しながら、俺達は四人の巨人達に分乗して森の中を進んでいた。

 勘違いで襲ってきただけでなく、その後の治療もしてあげたので、そのお礼として帰る彼等に連れて行ってもらう事になったのだ。


 どこへ? 当然、巨人王都≪クロニュソス・ティタン≫である。


 【神代ダンジョン】の中でも特殊な【神秘豊潤なる暗黒大陸】では、単純にココで生きる者達をダンジョンモンスターとして全て分類する事もできないようなので、少しでも情報が欲しかった。


 決して巨人達の料理が気になったからという訳ではない。

 これは、必要な事なのだ。



Day 417 == Day 418 == Day 419


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